アジャイル開発を元に考えるプロジェクトマネージャのあり方20
情報産業は人件費が主です。それが理由で「もの」を軽視している会社とプロジェクトマネージャが主流となってしまっています。果たして情報産業だけが「もの」を軽視してもよいのでしょか?
結論を先に言うと、人件費が主であるからこそ「もの」に注意を向けるべきです。何故ならば、人件費が主であるからこそ、「もの」に必要な金額の割合が低く、それ故梃子の原理が働くからです。それを理解するには知識が少し必要となります。
人件費の正体は作業時間です。たとえ月給制であっても、1月に達成した作業の数が変われば、1つの作業に費やした費用は変化します。ですから、人件費=作業時間*単価という法則が成り立ちます。という事は、個人の作業効率を上げればプロジェクトの利益率が高くなります。経営者がプロジェクトマネージャに求めているのは、プロジェクトの利益(どれだけ儲けたか)です。従って、プロジェクトマネージャは、プロジェクトがもたらす利益を最大化する事を考えなくてはなりません。
そこで登場するのが「もの」です。システム開発で必要となる「もの」といえば、誰もがPCを真っ先に思いつきます。最近はPCが安く、遅すぎるPCで開発効率を下げるよりも、ある程度のスペックがあるPCを買い与えたほうが賢明です。しかし、必要な「もの」はそれだけではありません。開発系ソフトウェアも必要です。多くの人がここで考えを止めてしまいますが、実のところ会計的な「もの」はそれだけではありません。
会計の観点からみると「もの」は一般に知られているよりも幅広く、資産全般を指す概念だと言えます。資産というのは、作業机、文房具から始まって、土地すらも含む概念です。従って、従来の残業ありきの「根性論」ではなく、作業効率を上げる環境を考えなくてはならないという事です。
意外と知られていませんが、アジャイル開発はそういった幅広い「もの」も重視しています。アジャイル開発でよく言われている「もの」は、ホワイトボード、マルチディスプレイ、PC、開発用サーバー、明るい照明、カード、優れた文房具、オフィスのレイアウトです。
日本では特に、オフィスのレイアウトが軽視されていますが、システム開発に於いてもオフィスのレイアウトは重要です。メンバーに直ぐに相談できる空間が必要なのはもちろんのこと、個人が集中できる環境が必要です。そういった事を考えるのがXPのファシリティ戦略です。
システム開発は非常に高度な知的作業です。人間が快適に作業できるように熟慮する必要があります。人件費が主流を占める情報産業は特にこれが言えます。最大の費用である人件費を削減するには、小額の「もの」に対する投資を躊躇する理由がありません。残念ながら経営者はえてして、そういった実体を知りませんから、プロジェクトマネージャが開発者の代弁者にならなくてはなりません。偉そうに高みの見物をするのがプロジェクトマネージャの仕事ではないのです。開発メンバーに対する細かな気配りが必要です。
ファシリティ戦略はアジャイル開発だけに適用できる概念ではありません。たとえアジャイル開発をしてなかったとしても、ファシリティ戦略は注目に値するものです。