真正性をつつく1 - 真正性の対象を見極めよう
前回、真正性とは「情報を要求するオブジェクトが本当に主張通りのオブジェクトなのかを保証する特性」だと書きました。オブジェクトだと書いてある点に注目して下さい。オブジェクトと考える事が重要です。何故ならば、真正性と言うと多くの人は人間を思い浮かべますが、保証するべき対象は人だけに限らないからです。人が発する言葉の内容も対象となります。その他にも、プロセスなどといったプログラム的なものも対象となります。
前回提示した、営業部長の山田太郎(仮名)が緊急の用件で来ているケースを元に考えてみましょう。真正性の対象となるオブジェクトを大別すると、営業部長の山田太郎と、要求している内容である緊急の用件です。この人は本当に営業部長の山田太郎なのでしょうか?緊急の用件とは何なのでしょうか?順を追って考えていきましょう。
先ず問題となるのは、山田太郎という人物が存在するか否かです。犯行をもくろむ人物が、適当な偽名を使っている可能性があります。山田太郎氏が存在するのか否かをどうやって知るのでしょうか?オブジェクトの存在を確認する方法を考えなくてはなりません。
次に考えるべき事は、営業部長としての山田太郎氏が存在するか否かです。情報部長の山田太郎氏が存在するものの、営業部では存在しないかもしれません。また、営業部に山田太郎氏が存在しても、部長でないかもしれません。他にも、同姓同名の人物が存在する場合もあります。こうした色々な可能性を視野に入れなければなりません。
最後の「緊急の要件」と言うオブジェクトについては、より慎重に考える必要があります。何故ならば、これは複合オブジェクトだからです。要件そのものと、緊急の用件に対する行動を伴っています。緊急の要件というオブジェクトと、それに伴い求めている行動というオブジェクトを見極める必要があるのです。さらに要件の内容によっては、さらなるオブジェクトがそこに含まれています。
以上のように、真正性は対象を見極める事が大切です。対象をはっきりさせないと、保障されていないオブジェクトを許可してしまうかもしれません。クラッキングもしくは詐欺の手口は、その多くが対象そのものを誤魔化す事から始まっています。おれおれ詐欺が格好の例でしょう。息子が存在するにしても、電話越しに存在する彼が本当に息子なのかという事をはっきりさせずに、彼の言う言葉を信じてしまうと大変な目に遭います。
今回は、真正性の第1段階である「対象の識別」について解説しました。次回は次の段階を解説します。