ネタつつき205 - 最も困難なプロジェクトと目指す道
システム屋のお仕事は、売上増量経費削減が絶対の条件です。それが前提で、それ以上の事を求められます。ここでいう売り上げと経費は未来のものです。従って、システム屋は未来を対象にサービスを提供することになります。幸い私は、情報分析能力を武器に、おおむね成功しており、お客様に大きなクレームを言われた事がないのですが、冷や汗をかいたプロジェクトがありました。それが、リーマンショックと関係しています。
リーマンショックそのものは予期できたものでした。あれが破綻しないと思うところに無理があります。私は金融に関して素人ですが、破綻するのは目に見えていました。ですから、私のクライアントには、金融投資を極力減らすよう呼びかけることにより、影響を減らせました。しかしながら、クライアントが取引している会社がリーマンショックの影響で破綻するところまで予期できませんでした。
正確にいうと、ある程度影響があることは予測できましたが、そこまで影響があるとは正直思いませんでした。何故ならば、素人の私でもわかるような破綻(サブプライムローンが破綻するのは自明)だったので、それぐらい誰もが予測していると考えたからです。それが私の甘さでした。どうすればよかったのか、どのような情報システムならば防げたのかについて、私はまだ答えを出せないでいます。
システム屋のお仕事は、お客様である企業の分析をすることも含まれています。しかしながら、依頼されていない取引企業の分析はやっていませんし、採算性などを考えると、分析可能だとは思えません。ならば、どのような企業と取引していても経営が揺るがない情報システムを、提供せねばならないことになるからです。さらには、取引先も違う取引先がいるので、連鎖的に全ての企業を分析することになるからです。残念ながら私の実力では、こういった情報システムは実装不可能です。
どんな外部要因があっても、売上増加経費削減を実現するにあたって、最も大きな壁は予算と納期です。無限の予算があるならば、理論的に可能でしょうが、極端にいうと「百万円だすから、人類が破滅しようとも売上増加経費削減を実現する情報システムを1か月で作ってくれ。」という要望に対して応えねばなりません。このような要望に対して、今のところ、私は答える術がありません。まだまだ鍛錬不足です。
つまり、情報システムを提供するにあたって、依頼を受けていない取引先と、自分の力が及ばない外部要因はどうするのかが課題となるのです。これをあきらめるのは簡単ですが、あきらめたら技術者としての死を迎えると思いますので、この課題について考え続けています。
先ほどの例でいうと、リーマンショックが起きるところまで想定できたのですから、実力があれば何とかなったのではないと思います。むろん、依頼を受けていない取引先の倒産を防ぐことはできませんが、その企業が倒産することを想定して情報システムを構築できたはずです。それさえできれば、納期と予算については、少なくとも、クライアントと相談することが可能であったと思います。
日本ではどれほど大きな過失があっても「想定外でした」と頭を下げれば許されることになっています。ですが、日本の技術者である私は、そのような愚かな行為をできません。何故ならば、「考えていませんでした。」と同義であり、技術者=考えていない人と定義することになるからです。本来技術者は考える人の事を言うのであって、想定外を想定しようともしない技術者なぞ存在理由がありません。実際はできないことがあるでしょうが、想定外でしたと開き直るのは問題以外の何物でもありません。
ちなみに、そのプロジェクトは、お客様自身が「リーマンショックの間接的影響は依頼範囲に含まれていないし、一応売上増大経費削減は成功しているからいいよ。」と言ってくれました。それだけに、もっとうまいやり方があったのではないかと考え続けています。
情報システムを構築するとき、依頼主にだけを目を向けていないでしょうか?依頼主の事を第一に考えるのは当然ですが、経営は閉じたものではなく、取引先や国際問題などの不確定な外部要因を視野に入れねばなりません。そうした依頼外の事にも広く目を向けられる技術者を私は目指します。