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計算機の基本原理を味わおう31 - 抽象化と具象化の狭間で揺れて

 この記事は、「計算機の基本原理を味わおう30 - コードセグメントとプログラムカウンタは仲良しこよし」の続きです。前回は、コードセグメントとプログラムカウンタの関係性について解説しました。今回は、コードセグメント更新時にプログラムカウンタをどうするべきなのかについて書きます。
 前回、コードセグメントの値を更新しただけでは、計算機は正常に動作しない事を解説しました。原因がわかれば解決は簡単です。コードセグメントを更新時に、プログラムカウンタの値をリセットすれば問題を解決できます。しかし、美しく解決する事は難しいです。何故ならば、横断的関心事になってしまうからです。
 横断的関心事というのは、簡潔に表現すると、複数のオブジェクトに影響を与える要求の事です。本当の定義はもっと複雑なのですが、今のところはこのぐらいで考えておいてよいと思います。
 この連載で扱っている最小計算機の実装方式は、オブジェクト指向プログラミングです。オブジェクト指向プログラミングでは、役割ごとにオブジェクトを作成します。具体的にいうと、命令解析、命令実行、アドレス管理、・・・と役割ごとにオブジェクトが分かれています。従って、「コードセグメントとプログラムカウンタをセットで更新する」などといった要求は、複数のオブジェクトに影響を及ぼしてしまいます。理想を言えば、こうした要求に対しても、1つのオブジェクトを更新するだけで対応できる状態でなければならないのですが、実際のところは難しいです。文章ではわかりにくいので、実際に体験してみましょう。
 ひとまず、比較移動命令オブジェクトに、コードセグメントを更新する事を示す属性(プロパティ)を追加します。

//比較移動命令。
public class CompareMove :
    Instruction,
    IEquatable<CompareMove>
{
    //コードセグメントが変更されることを示す。
    private bool _isCodeSegumentUpdate;
    public bool IsCodeSegumentUpdate
    {
        get { return this._isCodeSegumentUpdate; }
        internal set { this._isCodeSegumentUpdate = value; }
    }
}

これで命令の判別ができるようになったので、命令解析(デコード)オブジェクトで、新しいプロパティの設定を行います。

//命令を解析するオブジェクト。
public class Decoder
{
    //命令をデコードする。
    public CompareMove Decode( IEnumerable<bool> binary )
    {
        var result = new CompareMove( binary );
        bool imFlag = false;
        bool isCodeSegment = false;
        result.Destination = this.GetOperand(
            result.Destination, ref result,
            true, ref imFlag, ref isCodeSegment );
        result.Source = this.GetOperand(
            result.Source, ref result,
            false, ref imFlag, ref isCodeSegment );
        result.IsCodeSegumentUpdate = isCodeSegment;
        //不正命令検出
        if ( result.Destination.Value == 0 &
            result.Source.Value == 0 ) {
            throw new InvalidOperationException(
                "読み取ったバイナリ値が0でした。" +
                "正しい命令が用意されていません。" );
        }
        return result;
    }

    //オペランドを取得する。
    private IOperand GetOperand( 
        IOperand ope, 
        ref CompareMove target, 
        bool setFlag, 
        ref bool isImmediate, 
        ref bool isCodeSegemnt )
    {
        //他の部分は省略
            } else if ( ope.Value == 
                this._exeInfo.CodeSegmentAddress ) {
                result = this._addresser.CodeSegment;
                isImmediate = true;
                isCodeSegemnt = true;
    }
}

後は実行オブジェクトを更新するだけです。

//機械語命令を実行するオブジェクト。
internal class Executer
{
    //命令を実行する。
    public void Execute( CompareMove command )
    {
        command.Execute();
        if ( command.IsCodeSegumentUpdate ) {
            this._addresser.ProgramCounter.Value = 0;
        }
    }
}

コードを読むと私が言っていることがわかってもらえると思います。コードセグメントを更新するという、一つの事柄に3つのオブジェクトが関わっています。CompareMoveオブジェクトでデコードを担当させればよいのですが、それだと具象的すぎます。何故ならば、命令と機械の仕様がコードとして混在してしまうからです。混在しないように継承オブジェクトを作成すると、今度はオブジェクトの数が増えてしまいます。こうした、抽象化と具象化のバランスを考えるのが、オブジェクト指向プログラミングの醍醐味です。
 今回はこれで終わりです。今回は、オブジェクト指向プログラミングで起こりがちな、横断的関心事の問題について絡めて解説しました。この問題の解決方法はいろいろあります。横断的関心事の解決法は、何を抽象化するのか、どう具象化するのか、オブジェクトの役割の範囲をどう定義するか、・・・といった設計と実装の両面を深く考えるとこから出てきます。一度考えてみると面白いと思います。続く。
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